今回のコラムは、お役立ち情報ではなく、店長のつぶやき編となります。
2024年7月26日に、主に百貨店販路を主力としている有名アパレルメーカー「大賀株式会社」の民事再生法の適用したという衝撃的なニュースが飛び込んできました。
引用:老舗の紳士服メーカーとして知られる大賀(株)[大阪]ほか1社が民事再生
昨年2023年末に一部の縫製工場を閉鎖したと聞いていましたが、ついにこの時がきてしまったのかと、非常に残念に思っています。
当店の運営元である紳士服メーカーは、現在は百貨店のイベント時に期間限定で出店をする形態をとっております。
しかし以前は百貨店の紳士服売場に出店をして常設ショップを運営しており、最盛期には全国の百貨店へ約15店舗出店をしておりました。
百貨店の紳士服売場の状況を私の主観を交えながら説明していきたいと思います。

弊社は昭和21年に創業し、テキスタイルメーカーとしてその歴史をスタートいたしました。多様化にお答えしてきた結果フォーマルウエアからスーツ、カジュアルウエアなどメンズファッション業界の変化に適応し貢献してきました。
百貨店とメーカーの商売の仕方
百貨店とメーカーでは、大きく分けると以下の3つの取引形態があります。
【掛率形態】
これは商品が売れた場合、その価格の〇〇%を百貨店側が差し引いてメーカー側へ入金をする形態です。
例えば、掛率50%として契約を交わしていれば、10,000円の商品が売れてもメーカーに入金される金額は5,000円となります。
衣料品に限らず、雑貨や食料品など、多くのメーカーがこの手法で百貨店と取引していると思われます。
ただ掛率のパーセンテージは扱う商品によって大きく異なります。
例えば紳士服売場のショップで定価の商品は55%~65%、セール時期などの赤札で65%~70%ほど、特価品などはもう少し高めの掛率というのが平均かと思われます。
【下代形態】
これは一般的な物の売買と同じように売買契約を結ぶ方法です。
メーカーは商品を卸し、百貨店が仕入れることです。
紳士服売場でいえば、百貨店オリジナル商品や店舗別注品などに見受けられる手法です。
【家賃形態】
これは近年徐々に増加傾向にある形態で、商品が売れても売れなくても毎月一定額を百貨店へ納める方法です。
百貨店にとっては売上金額に左右されず毎月固定額が入るメリットもありますし、メーカーにとっても損益分岐点以上の売上を出せば大きな利益が見込めます。
この方法は郊外の大型ショッピングセンターへテナントとして入る場合に多く見受けられます。
百貨店メンズアパレルの収支
百貨店出店は、ショップ名やメーカー名などの知名度向上、売上金額の翌月全額振込などメリットも十分あります。
しかし紳士服専門店と比較して、一番大きい違いは販売員経費が発生することです。
紳士服専門店ではそのお店に常駐している販売員さんが販売をしますので商品完納で終わりますが、百貨店ではメーカーから派遣された販売員さんが販売業務を行いますので、商品完納してからがスタートラインとなります。
ちなみにこの販売員ですが、郊外など小型の百貨店を除いて都内など主要都市の百貨店では、基本的には営業時間内は常にショップの販売員がいることが求められます。
販売員は週休2日で実働8時間のため、1週間ショップを運営する場合、最低でも2.5名(3人)は必要です。
百貨店の紳士服売場へ紳士スーツのショップを出店する収支例を出しましょう。
※実際には各ショップによって掛率は異なりますし、商品原価も異なります。
またセール時期などがあれば掛率も変動となるため、下記はあくまで例として参考にしてみてください。
【例①】
原価2万円の商品を4万円(掛率60%)で1ヶ月に25着100万円の売上を作った時のメーカーの利益はいくらになるでしょうか。
この時の販売員費は最少人数で、月給25万円×2名と月給18万円とします(週5日勤務2名、週4日勤務1名)
・売上100万円 ✕ 掛率60% = 60万円
・百貨店からの入金額60万 ― 商品原価計50万 = 10万円(これがメーカーとしての粗利益となります)
・粗利益10万 ― 販売員経費計68万円 = -58万円(これだと大赤字です)
【例②】
原価2万円の商品を5万円(掛率60%)で1ヶ月に100着500万円の売上を作った時のメーカーの利益はいくらになるでしょうか。
この時の販売員費は最少人数で、月給25万円×2名と月給18万円とします(週5日勤務2名、週4日勤務1名)
・売上500万円 ✕ 掛率60% = 300万円
・百貨店からの入金額300万 ― 商品原価計200万 = 100万円(これがメーカーとしての粗利益となります)
・粗利益100万 ― 販売員経費計68万円 = 32万円(これが利益となります)
500万の売上を作ることが出来れば利益は出せますが、メーカー倉庫から百貨店まで商品を運ぶ運賃、保管している倉庫費、販売した商品の修理代(裾上げ代など)、本社の事務職人件費、ブランド商品であればライセンス料など、実際にはさらに経費がかかります。
そのあたりを考慮すると、販売員さんが3人いるショップでは、月に450万円~500万円ほどの売上を作りることができれば、良くて収支トントンといったところでしょうか。
なので、百貨店紳士スーツメーカーは、商品原価を少しでも安くして価格を少しでも上げる、3人目の販売員さんは近隣のショップと分け合い人件費を下げるなど多くの試みをしています。
百貨店の現状
2024年7月25日付で、以下のようなネットニュースが配信されていました。
引用:免税売上高、半年で3300億円 過去最高、訪日客増で 全国百貨店
インバウンドの需要(前年同月比約2.4倍)もあり、百貨店各社売上(既存店ベースで14.0%増)も順調に伸びているようです。
一方で紳士スーツの売上はなんとか前年実績をキープしているようですが、堅調なショップと売上苦戦しているショップに二極化されている傾向がより一層強くなっていると思われます。
また郊外型の百貨店では、度々ニュースなどで取り上げられているように、大型ショッピングセンターの台頭や人口減少などもあって売上減少に歯止めが効かず、百貨店自体の存続も危ぶまれている地域もあります。
このように集客が少ない百貨店に、複数の人員を配置せざるを得ないショップ運営は、非常に効率が悪くなります。
また百貨店自身も新たな顧客層開拓に向けて試行錯誤しますが、そう簡単にはいきません。
好調な入店客数を誇る百貨店の紳士服売場で、商社が運営するブランドショップや一部の有名メーカーショップ、インポートのハイブランドショップなどであれば毎月利益を出すことは可能でしょう。
しかし小さな運営規模のショップなどでは、最低450万円~500万円の売上を継続して毎月確保し続けることは至難の業かと思われます。
またアパレルメーカーは、売上として入金を受ける前に、生地メーカーや付属品メーカー、縫製工場などへ先に支払いをする必要があります。
そうなると資本力のないメーカーは、キャッシュフローが悪化して倒産してしまうということはよく耳にします。
百貨店メンズアパレルの対策
1996年ごろ~2000年代前半までは、ビジネスウェアの平均購入金額が2万円前後で推移しておりましたが、近年では1万円を下回っています。
最近ではビジネスウェアとしてのスーツ着用の割合が減っている点や、競合するお店が実店舗からインターネット店舗に変わってきている点など、百貨店を主販路している紳士服メーカーだけの問題ではありませんが、特に高額品を扱う百貨店メンズアパレルにとって、取り巻く環境の厳しさが増しているようです。
このような実態もあり、百貨店を主販路にしているメンズアパレル各社は、
・商品価格の見直し
・展開店舗数の縮小
・主力商品以外の取扱いアイテムの廃止
・セール等の値引き販売廃止による粗利確保
など数々の対策を講じてアパレルメーカーとしての健全化に努めています。
店長のつぶやき
冒頭にも述べた大賀さんの民事再生法の適用のニュースは、私だけではなく、多くのアパレル関係者に衝撃を与えたのではないでしょうか。
数年前にコロナ関連破産として取り上げられた株式会社レナウンと同等です。
20年ほど昔、私が入社して間もない頃、大阪の谷町にあった大賀さんの大きなビルと「キングタイガー」の看板を見て驚いたことをよく覚えています。
その後私自身も百貨店へ出入りするようになり、レナウンさんの「D’URBAN(ダーバン)」に対する誇り、大賀さんの「キングタイガー」に対する誇り、それぞれの誇りを目の当たりにして、尊敬の念すら抱いておりました。
レナウンさんに続き大賀さんという日本の百貨店メンズアパレルを牽引してきたメーカーがなくなってしまう事を大変残念に思っています。
しかし裏を返すと、それくらいコロナ禍を経た現在は、百貨店アパレルの転換期なんだろうなと強く思った次第です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回のコラムは、店長のつぶやき的な内容で書かせていただきました。
様々な分野でも、業界の転換期というのは必ず起こるものであり、メンズアパレル業界では、まさに今が転換期となっているのでしょう。
当店レンタル110番のような、レンタル業態が最たる例かもしれません。
これからも時代の流れを感じ取り、よりよいショップ運営に努めて参ります。
最後までお読みいただきありがとうございました。